超党派「アルコール問題議員連盟」による基本法案 制定までの経緯
2012年3月、アル法ネットの要望に応え、超党派「アルコール問題議員連盟」が基本法の中身の検討に入りました。その後、関連省庁(厚生労働省・国税庁・警察庁・法務省・文部科学省など)、専門家・当事者・家族・市民団体、酒類業中央団体連絡協議会へのヒアリングを重ね、2012年11月14日にまとまったのが、「アルコール健康障害対策基本法骨子(案)」です。タイトルには「アルコール健康障害」が使われていますが、内容は、アル法ネットの基本法コンセプトを体現したものになっています。議連総会で承認を得たのは、衆院解散の1時間前でした。
政権交替後は自民党の合同部会でヒアリングや討議が行なわれ、条文化された草案が、2013年5月21日に議連総会で承認。その後、6月10日、25日と修正が加えられました。最後まで調整が続いたのは、所管を内閣府にするか厚労省にするかでしたが、10月9日に、「当初は内閣府、のちに厚労省に移管」との案で内閣府と厚労省が合意に至り、10月24日、議連総会で承認されました。
この後、各党の了承手続きに入り、11月7日、自民党・公明党・民主党・みんなの党・日本維新の会・共産党・生活の党・社民党の全党合意を確認し、草案は決定稿となりました。
11月20日17時10分、衆議院内閣委員会において、超党派議連による草案が正式の法律案として全会一致で採択され、翌21日13時45分、委員長提案として衆議院本会議にかけられて可決されました。
12月6日11時54分、参議院内閣委員会で可決し、翌7日0時25分、参議院本会議で全会一致で原案のまま可決されました。臨時国会閉会直前でした。
2013年12月13日公布(法律第109号)。
同日、内閣府(共生社会政策)に、アルコール健康障害対策推進準備室が発足しました。
2014年6月1日施行により、上記準備室は「アルコール健康障害対策推進室」となり、内閣府のホームページ内に「アルコール健康障害対策ページ」が新設されました。ぜひご覧ください。
なお、2013年9〜10月、当基本法の制定を求める意見書が、広島県・島根県・鳥取県・山口県・愛媛県・大分県・奈良県・和歌山県・愛知県・三重県・北海道、名古屋市(11道県1市)から国に提出されています。
→アルコール健康障害対策基本法制定を求める地方議会から国への意見書
〈法案のこれまでの修正の経緯〉
2012年11月14日骨子案
2013年5月21日法案(未定稿)
2013年6月10日法案(未定稿)
2013年6月25日法案(未定稿)
2013年11月7日最終法案(PDF 838KB)
アルコール健康障害対策基本法 2013年12月7日成立
目次
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、酒類が国民の生活に豊かさと潤いを与えるものであるとともに、酒類に関する伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり、アルコール健康障害は、本人の健康の問題であるのみならず、その家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる危険性が高いことに鑑み、アルコール健康障害対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、アルコール健康障害対策の基本となる事項を定めること等により、アルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に推進して、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止を図り、あわせてアルコール健康障害を有する者等に対する支援の充実を図り、もって国民の健康を保護するとともに、安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「アルコール健康障害」とは、アルコール依存症その他の多量の飲酒、未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等の不適切な飲酒の影響による心身の健康障害をいう。
(基本理念)
第三条 アルコール健康障害対策は、次に掲げる事項を基本理念として行わなければならない。
一 アルコール健康障害の発生、進行及び再発の各段階に応じた防止対策を適切に実施するとともに、アルコール健康障害を有し、又は有していた者とその家族が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援すること。
二 アルコール健康障害対策を実施するに当たっては、アルコール健康障害が、飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の問題に密接に関連することに鑑み、アルコール健康障害に関連して生ずるこれらの問題の根本的な解決に資するため、これらの問題に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとすること。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、アルコール健康障害対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、アルコール健康障害対策に関し、国との連携を図りつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業者の責務)
第六条 酒類の製造又は販売(飲用に供することを含む。以下同じ。)を行う事業者は、国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力するとともに、その事業活動を行うに当たって、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に配慮するよう努めるものとする。
(国民の責務)
第七条 国民は、アルコール関連問題(アルコール健康障害及びこれに関連して生ずる飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の問題をいう。以下同じ。)に関する関心と理解を深め、アルコール健康障害の予防に必要な注意を払うよう努めなければならない。
(医師等の責務)
第八条 医師その他の医療関係者は、国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力し、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に寄与するよう努めるとともに、アルコール健康障害に係る良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
(健康増進事業実施者の責務)
第九条 健康増進事業実施者(健康増進法(平成十四年法律第百三号)第六条に規定する健康増進事業実施者をいう。)は、国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力するよう努めなければならない。
(アルコール関連問題啓発週間)
第十条 国民の間に広くアルコール関連問題に関する関心と理解を深めるため、アルコール関連問題啓発週間を設ける。
2 アルコール関連問題啓発週間は、十一月十日から同月十六日までとする。
3 国及び地方公共団体は、アルコール関連問題啓発週間の趣旨にふさわしい事業が実施されるよう努めるものとする。
(法制上の措置等)
第十一条 政府は、アルコール健康障害対策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 アルコール健康障害対策推進基本計画等
(アルコール健康障害対策推進基本計画)
第十二条 政府は、この法律の施行後二年以内に、アルコール健康障害対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、アルコール健康障害対策の推進に関する基本的な計画(以下「アルコール健康障害対策推進基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 アルコール健康障害対策推進基本計画に定める施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の時期を定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、あらかじめ関係行政機関の長に協議するとともに、アルコール健康障害対策関係者会議の意見を聴いて、アルコール健康障害対策推進基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 政府は、アルコール健康障害対策推進基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
5 政府は、適時に、第二項の規定により定める目標の達成状況を調査し、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
6 政府は、アルコール健康障害に関する状況の変化を勘案し、及びアルコール健康障害対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、アルコール健康障害対策推進基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。
7 第三項及び第四項の規定は、アルコール健康障害対策推進基本計画の変更について準用する。
(関係行政機関への要請)
第十三条 内閣総理大臣は、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対して、アルコール健康障害対策推進基本計画の策定のための資料の提出又はアルコール健康障害対策推進基本計画において定められた施策であって当該行政機関の所管に係るものの実施について、必要な要請をすることができる。
(都道府県アルコール健康障害対策推進計画)
第十四条 都道府県は、アルコール健康障害対策推進基本計画を基本とするとともに、当該都道府県の実情に即したアルコール健康障害対策の推進に関する計画(以下「都道府県アルコール健康障害対策推進計画」という。)を策定するよう努めなければならない。
2 都道府県アルコール健康障害対策推進計画は、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第一項に規定する医療計画、健康増進法第八条第一項に規定する都道府県健康増進計画その他の法令の規定による計画であって保健、医療又は福祉に関する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。
3 都道府県は、当該都道府県におけるアルコール健康障害に関する状況の変化を勘案し、及び当該都道府県におけるアルコール健康障害対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、都道府県アルコール健康障害対策推進計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更するよう努めなければならない。
第三章 基本的施策
(教育の振興等)
第十五条 国及び地方公共団体は、国民がアルコール関連問題に関する関心と理解を深め、アルコール健康障害の予防に必要な注意を払うことができるよう、家庭、学校、職場その他の様々な場におけるアルコール関連問題に関する教育及び学習の振興並びに広報活動等を通じたアルコール関連問題に関する知識の普及のために必要な施策を講ずるものとする。
(不適切な飲酒の誘引の防止)
第十六条 国は、酒類の表示、広告その他販売の方法について、酒類の製造又は販売を行う事業者の自主的な取組を尊重しつつ、アルコール健康障害を発生させるような不適切な飲酒を誘引することとならないようにするために必要な施策を講ずるものとする。
(健康診断及び保健指導)
第十七条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に資するよう、健康診断及び保健指導において、アルコール健康障害の発見及び飲酒についての指導等が適切に行われるようにするために必要な施策を講ずるものとする。
(アルコール健康障害に係る医療の充実等)
第十八条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害に係る医療について、アルコール健康障害の進行を防止するための節酒又は断酒の指導並びにアルコール依存症の専門的な治療及びリハビリテーションを受けることについての指導の充実、当該専門的な治療及びリハビリテーションの充実、当該専門的な治療及びリハビリテーションの提供を行う医療機関とその他の医療機関との連携の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。
(アルコール健康障害に関連して飲酒運転等をした者に対する指導等)
第十九条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害に関連して飲酒運転、暴力行為、虐待、自殺未遂等をした者に対し、当該者に係るアルコール関連問題の状況に応じたアルコール健康障害に関する指導、助言、支援等を推進するために必要な施策を講ずるものとする。
(相談支援等)
第二十条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害を有し、又は有していた者及びその家族に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずるものとする。
(社会復帰の支援)
第二十一条 国及び地方公共団体は、アルコール依存症にかかった者の円滑な社会復帰に資するよう、就労の支援その他の支援を推進するために必要な施策を講ずるものとする。
(民間団体の活動に対する支援)
第二十二条 国及び地方公共団体は、アルコール依存症にかかった者が互いに支え合ってその再発を防止するための活動その他の民間の団体が行うアルコール健康障害対策に関する自発的な活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
(人材の確保等)
第二十三条 国及び地方公共団体は、医療、保健、福祉、教育、矯正その他のアルコール関連問題に関連する業務に従事する者について、アルコール関連問題に関し十分な知識を有する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
(調査研究の推進等)
第二十四条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止並びに治療の方法に関する研究、アルコール関連問題に関する実態調査その他の調査研究を推進するために必要な施策を講ずるものとする。
第四章 アルコール健康障害対策推進会議
第二十五条 政府は、内閣府、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、警察庁その他の関係行政機関の職員をもって構成するアルコール健康障害対策推進会議を設け、アルコール健康障害対策の総合的、計画的、効果的かつ効率的な推進を図るための連絡調整を行うものとする。
2 アルコール健康障害対策推進会議は、前項の連絡調整を行うに際しては、アルコール健康障害対策関係者会議の意見を聴くものとする。
第五章 アルコール健康障害対策関係者会議
第二十六条 内閣府に、アルコール健康障害対策関係者会議(以下「関係者会議」という。)を置く。
2 関係者会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 アルコール健康障害対策推進基本計画に関し、第十二条第三項(同条第七項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。
二 前条第一項の連絡調整に際して、アルコール健康障害対策推進会議に対し、意見を述べること。
第二十七条 関係者会議は、委員二十人以内で組織する。
2 関係者会議の委員は、アルコール関連問題に関し専門的知識を有する者並びにアルコール健康障害を有し、又は有していた者及びその家族を代表する者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 関係者会議の委員は、非常勤とする。
4 前三項に定めるもののほか、関係者会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三条、第四条、第六条及び第七条の規定は、アルコール健康障害対策推進基本計画が策定された日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
2 政府は、前項ただし書の政令を定めるに当たっては、アルコール健康障害対策推進基本計画に定める施策の実施の状況に配慮しなければならない。
(検討)
第二条 この法律の規定については、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況について検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
(アルコール健康障害対策基本法の一部改正)
第三条 アルコール健康障害対策基本法(平成二十五年法律第百九号)の一部を次のように改正する。
第十二条第一項中「、この法律の施行後二年以内に」を削り、同条第三項及び第四項を削り、同条第五項中「第二項」を「前項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第六項を同条第四項とし、同条第七項を削り、同条に次の二項を加える。
5 アルコール健康障害対策推進基本計画を変更しようとするときは、厚生労働大臣は、あらかじめ関係行政機関の長に協議するとともに、アルコール健康障害対策関係者会議の意見を聴いて、アルコール健康障害対策推進基本計画の変更の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
6 政府は、アルコール健康障害対策推進基本計画を変更したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
第十三条中「内閣総理大臣」を「厚生労働大臣」に、「策定」を「変更」に改める。
第二十六条第一項中「内閣府」を「厚生労働省」に改め、同条第二項第一号中「第十二条第三項(同条第七項において準用する場合を含む。)」を「第十二条第五項」に改める。
第二十七条第二項中「内閣総理大臣」を「厚生労働大臣」に改める。
(アルコール健康障害対策関係者会議に関する経過措置)
第四条 附則第一条第一項ただし書に規定する規定の施行の際現に内閣府に置かれたアルコール健康障害対策関係者会議の委員である者は、同項ただし書に規定する規定の施行の日に、前条の規定による改正後のアルコール健康障害対策基本法第二十七条第二項の規定により、厚生労働省に置かれるアルコール健康障害対策関係者会議の委員として任命されたものとみなす。
(内閣府設置法の一部改正)
第五条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項第四十六号の三の次に次の一号を加える。
四十六の四 アルコール健康障害対策推進基本計画(アルコール健康障害対策基本法(平成二十五年法律第百九号)第十二条第一項に規定するものをいう。)の策定及び推進に関すること。
第三十七条第三項の表障害者政策委員会の項の次に次のように加える。
アルコール健康障害対策関係者会議 |
アルコール健康障害対策基本法 |
第六条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。
第四条第三項第四十六号の四を削る。
第三十七条第三項の表アルコール健康障害対策関係者会議の項を削る。
(厚生労働省設置法の一部改正)
第七条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第八十九号の次に次の一号を加える。
八十九の二 アルコール健康障害対策基本法(平成二十五年法律第百九号)第十二条第一項に規定するアルコール健康障害対策推進基本計画の策定(変更に係るものに限る。)及び推進に関すること。
第六条第二項中「労働保険審査会」を「労働保険審査会アルコール健康障害対策関係者会議」に改める。
第十三条の次に次の一条を加える。
(アルコール健康障害対策関係者会議)
第十三条の二 アルコール健康障害対策関係者会議については、アルコール健康障害対策基本法(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
第十八条第一項中「第八十七号から」の下に「第八十九号まで、第九十号から」を加える。
理 由
酒類が国民の生活に豊かさと潤いを与えるものであるとともに、酒類に関する伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり、アルコール健康障害は、本人の健康の問題であるのみならず、その家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる危険性が高いことに鑑み、アルコール健康障害対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、アルコール健康障害対策の基本となる事項を定めること等により、アルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に推進して、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止を図り、あわせてアルコール健康障害を有する者等に対する支援の充実を図る必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。