設立総会のレポート

第1部 アル法ネット設立総会

設立総会 会場の様子
2012年5月31日(木)15:30~16:30、東京・永田町の参議院議員会館で、アルコール関連問題基本法推進ネット(略称アル法ネット)の設立総会が行なわれました。
「アルコール対策の基本法を」という目的のもと、関連団体・議員・行政の担当者が一堂に会した光景は画期的でした。
参加者は78名。その内訳は、アル法ネットの賛同団体(2012年5月31日現在164団体)から36名、超党派の「アルコール問題議員連盟」から議員と秘書16名、厚生労働省・法務省・国税庁・参議院法制局から10名、関係団体1名、酒類業界から10名、マスコミ5名。
会場前方に3つの机を配置、中央の机には「アルコール問題議員連盟」の三役、向かって左には厚生労働省・法務省・国税庁の方々、右には設立委員会の医師3名が座っています。その脇にひかえた司会の今成知美・アル法ネット事務局長(ASK代表)が開会を宣言。
今成知美・アル法ネット事務局長(ASK代表)

開会の辞

丸山勝也・アル法ネット設立委員長(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長/日本アルコール関連問題学会)
丸山勝也・アル法ネット設立委員長(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長/日本アルコール関連問題学会)
2010年にWHOが「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を採択したことを契機に、基本法制定に向け、3学会(日本アルコール・薬物医学会/日本アルコール関連問題学会/日本アルコール精神医学会)と日本アルコール問題連絡協議会が賛同の呼びかけを開始したことを述べ、基本法制定に尽力してくださっている議員連盟に対する感謝を表明。

アル法ネット設立委員会から

烏帽子田彰・設立委員(3学会合同基本法構想委員会委員長/日本アルコール・薬物医学会/広島大学教授)
烏帽子田彰・設立委員(3学会合同基本法構想委員会委員長/日本アルコール・薬物医学会/広島大学教授)
各学会での討議を経て、2011年3月13日に3学会合同構想委員会が発足し、2012年1月23日のアル法ネット設立委員会発足につながった経緯、3月7日・5月10日の議連でのヒアリングなどについて説明。昭和60年の公衆衛生審議会答申からWHO世界戦略までの25年間に具体的な対策の進展がみられていないとして、基本法に必要な要素として、予防と健康教育、医療と回復、社会と環境の改良、そのための調査研究を挙げました。

猪野亜朗・設立委員(日本アルコール精神医学会)
猪野亜朗・設立委員(日本アルコール精神医学会)
「かつて三重県で行なった調査では、一般病院を経由して専門病院にたどり着くまで、依存症発症後平均7.4年かかっていたが、関係機関の連携で2.8年まで短縮することができた。連携を全国に広げるためには、国の力を借りることが必要」と依存症の早期発見・治療への熱い思いを語りました。(PDFファイル発言の全文はこちら

「アルコール問題議員連盟」のあいさつ

多忙な中、駆けつけてくださった「アルコール問題議員連盟」の議員からの祝辞には、単なる儀礼ではない、熱意がうかがえました。

会長 櫻井充・参議院議員
会長 櫻井充・参議院議員
心療内科の医師で、依存症患者のカウンセリングも経験している櫻井議員は、「基本法の法案骨子はすでにできていて、議連の総会で了解を得られたら、各党内、政府の調整へと進む。議連の拡大をはかり成案をめざす」と宣言。

会長代行 中谷元・衆議院議員
会長代行 中谷元・衆議院議員
高知市出身で「下司病院にある断酒会の看板を見ながら育った」という中谷議員は、「アルコール問題は社会が本気で取り組んでいかねばならない問題と認識している」と語り、「法案の骨子にはアル法ネットの構想案を盛り込む」と約束。

事務局長 松山政司・参議院議員
事務局長 松山政司・参議院議員
福岡県選出の松山議員は、「飲酒運転が減らない地元の状況に頭を痛めている。基本法制定に真剣に取り組んでいきたい」と表明。

その後マイクは会場の議員へと渡り、古賀敬章・衆議院議員、あべ俊子・衆議院議員、石毛鍈子・衆議院議員、初鹿明博・衆議院議員、森本哲生・衆議院議員、石井みどり・参議院議員と、出席議員全員がスピーチ。依存症の家族の思いを受けとめたり、被災地のアルコール問題に注目したり、「お酒の広告を朝の通勤電車で見せられるのは日本だけではないか」「お酒の許容文化が世界と違うが、そろそろ枠組みをつくる時期にある」という発言が出るなど、意識の高さが伝わってきました。
古賀敬章・衆議院議員あべ俊子・衆議院議員石毛鍈子・衆議院議員
初鹿明博・衆議院議員森本哲生・衆議院議員石井みどり・参議院議員
「アルコール問題議員連盟」は、全日本断酒連盟の働きかけで、1987年に超党派の「アルコール問題議員懇談会」として発足、1999年に「アルコール問題議員連盟」になりました。多くの議員が地元の断酒会行事に出席しており、体験談を通して依存症という病気や家族の苦労を知っています。
設立総会後、民主党の厚生労働部会にアルコール健康障害小委員会(委員長:初鹿明博議員)が発足。自民党にはアルコール問題対策議員連盟(代表:中谷元議員、事務局長:あべ俊子議員)が3月に発足しています。

関連省庁からのあいさつ

基本法の目的の1つが、関連する省庁の連携。設立総会には、3省庁が出席してくださいました。
厚生労働省 健康局がん対策・健康増進課 木村博承・課長
厚生労働省 健康局がん対策・健康増進課 木村博承・課長
「健康の観点からアルコール対策を推進している。疾病対策はかつての感染症中心から慢性疾患へと移った。慢性疾患にアルコールは大きく関わっている。健康日本21でも多量飲酒を減らす目標が達成できていない。国際的な流れを踏まえ、国内におけるアルコール政策を考えていく必要があり、法制化の動きに注目している」と述べました。
同省からは、社会・援護局精神・障害保健課の蒲生裕司・依存症対策専門官も出席。

法務省 矯正局成人矯正課 宮田裕良・企画官
法務省 矯正局成人矯正課 宮田祐良・企画官
「平成18年の監獄法改正以来、刑務所での受刑者プログラムが始まった。受刑者の中には飲酒問題によって事件を起こした者が少なくない。飲酒運転などを中心にアルコール教育プログラムが実施されているが、刑務所職員だけではできない」と連携の必要性を語りました。

国税庁酒税課 山本昌平・課長補佐
国税庁酒税課 山本昌平・課長補佐
「未成年者の飲酒防止のため、酒類販売管理者の選任義務や店頭での陳列場所における表示義務の遵守、販売時の年齢確認の実施などについて、その徹底を図っている」と、適正な販売管理体制の整備に関する国税庁の取組を紹介。

福岡県議会からのメッセージ

福岡県議会は、2012年2月に「PDFファイル福岡県飲酒運転撲滅運動の推進に関する条例」を制定しました。これは、飲酒運転違反者に対し、アルコール依存症に関する診断を義務付ける全国初の条例で、同県議会は国に対する法整備の要望も行なっています。
福岡県議会 飲酒運転撲滅条例調整会議 樋口明・座長からのPDFファイルメッセージはこちら

議事

設立委員会・丸山委員長
設立委員会・丸山委員長が議長となり、規約・幹事・活動方針の3つの議案が拍手で承認されました。「アル法ネット」が正式発足です。


議案1 PDFファイルアル法ネット規約
議案2 PDFファイルアル法ネット幹事
議案3 PDFファイル今後の活動方針

第2部<アピール>アルコール関連問題と基本法の必要性

休憩をはさんで、16:40〜18:50は第2部です。

講演「我が国で求められているアルコール関連問題対策」

樋口進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長)
樋口進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長)
WHO専門家諮問委員、WHOアルコール関連問題研究・研修協力センター長も務める、国際的エキスパートである樋口医師は、「世界戦略」と照らしつつ、数々のデータをあげながら対策の必要性を明らかにしていきました。
「わが国のアルコール消費は1993年をピークに下降線にあるものの、米国・カナダと同じレベルで、アジア諸国では突出して多い。とくに女性の飲酒率の増加は過去50年あまりで5倍にもなっている。飲酒による社会的な損失は酒税の3倍にのぼる」





各分野からのアピール

1.飲酒運転対策のかなめ 
井上保孝・郁美(飲酒運転被害者遺族)
井上保孝・郁美(飲酒運転被害者遺族)

「刑法に危険運転致死傷罪が新設され、道路交通法の改正が行なわれた。ところが厳罰化にも関わらず、飲酒運転はなくならない。それはなぜかというと、問題飲酒者が野放しになっているから」
「加害者サイドからよく聞くのは『二度とハンドルを握らない』という言葉。でも『二度と酒を飲まない』とは誰も言わない……問題はここにある」

2.日本の消費者を守るために 
佐野真理子(主婦連合会事務局長)
佐野真理子(主婦連合会事務局長)
「アルコール関連問題を、消費者問題ととらえて取り組んできた」と佐野さんは語ります。
「社会的な枠組みが作られることは、消費者を守ることにつながる。お酒が安ければいいというのは消費者を守ることにならない。メーカーにとっても同様のはず」「とくに女性の飲酒が心配。女性をターゲットにした商品がたくさん出ている。また、アルコールと清涼飲料の境界があいまいになっている」「デメリットについての情報が消費者に伝わっていない。基本法ができることで社会の認識が変わることを願っている」

 

3.自殺/うつ対策の重点課題 
竹島正(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター センター長)
竹島正(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター センター長)
「自殺者が年間3万人を超えて注目された『急増』以前から、中高年の男性の自殺は多かった」と竹島医師は振り返ります。「50代で無職で家族と離別となったら、アルコール依存症の可能性は高い。けれど氷山の下にある問題に目が向けられずに来た」
「自殺者の9割が精神疾患を持っていたことがわかっており、4割はうつ、2、3割がアルコールと言われている。そして、うつとアルコールは合併することが多い」「問題ごとに分断するのではなく、関連の問題をつないでいく基本法をつくることが大切」


4.DV・虐待の背景に 
佐藤喜宣(日本アルコール問題連絡協議会会長・杏林大学法医学教授)
佐藤喜宣(日本アルコール問題連絡協議会会長・杏林大学法医学教授)
「法医学では、アルコールが引き金になる転倒・転落死を扱うことが多い」と語る佐藤医師。
専門である虐待症候群については、「飲酒が背景にあるものが15年前は40%だったが、その後65%と欧米化している」(欧米はアルコール・薬物依存と問題飲酒が虐待症候群の背景の85%以上)
「DVの加害者プログラムも、北米ではアルコールの社会復帰プログラムが原型になっている。アルコールの基本法ができる意義は大きい」



5.一般医療との連携を 
吉本尚(日本プライマリ・ケア連合学会/家庭医)
吉本尚(日本プライマリ・ケア連合学会/家庭医)
「東日本大震災でアルコール問題が増えるだろう、どう早期発見するかが課題ということで、WHOのAUDIT、ブリーフ・インタベンションのマニュアルを訳したことからこの問題の重要性を改めて実感した」と述べるのは家庭医の吉本医師。
「専門医療だけで対応できる問題ではなく、プライマリ・ケアからの予防・早期発見・簡易介入・紹介が必要だが、これらを行なうには診療時間などの問題がある。制限の中で、現実的に使用可能な介入ツールの普及や、紹介先・相談先が地域に増えていくことが欠かせない」

6.家族の視点を 
渡邊淳子(全日本断酒連盟)
渡邊淳子(全日本断酒連盟)
「こんな場に立ち会えて光栄」と、依存症家族としての体験を話す渡邊さんは、「内科と精神科が連携してくれたら、夫はもっと早く治療につながっただろう」と強調します。
「27歳のときに、保健所の酒害相談に行った。それまで夫は何度も内科に入院を繰り返していた。断酒会の人が内科の医者に『今度来たら断わってくれ』と頼んでくれ、それがきっかけで専門医療につながった。断酒会で依存症が病気だと知ったことで夫を受け入れられたし、自分も救われた」


7.アルコール依存症の回復を支援する社会に 

藤田さかえ(日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/精神保健福祉士)
藤田さかえ(日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会/精神保健福祉士)
「かつて、医療と福祉と社会復帰の現場にいたソーシャルワーカーたちは、誰からもアルコール依存症のことを教えてもらえず、バラバラだった。専門職の中にも無知や偏見があった。27年前に連携の場をつくったのは、自分たち自身で学ぶため」と語る藤田氏。
「誤解や偏見の中で、依存症が個人の弱さのせいにされ、保健医療福祉のサービスから排除されないように」「専門職の育成、保健医療の相談窓口の拡充、専門医療の充実、社会復帰のための社会資源の充実が保証される基本法を」と訴えます。

終わりにあたって――

回復者たちの言葉

(左から)野添透、本島直幸(全国マック協議会)、立木鐵太郎(全日本断酒連盟)
最後に司会が「アルコール依存症の回復者の方」と声をかけると、全国マック協議会の本島直幸氏が席から立ち上がり、カメラマン役を務めてくれた野添透さん、全日本断酒連盟の立木鐵太郎さんが並びました。「やっとここまできたと胸が熱くなった。回復によって、まだ苦しんでいる人に希望を与えることができる」(本島さん)、「お酒をやめて変わったのは、子どもの笑顔、家族の時間がもてるようになったこと」(野添さん)。

閉会の辞

立木鐵太郎(公益社団法人全日本断酒連盟名誉役員/アル法ネット設立委員)
立木鐵太郎(公益社団法人全日本断酒連盟名誉役員/アル法ネット設立委員)
閉会の辞のマイクをとった立木さんは、「悪しき主役、アルコール依存症の一人として、厚く御礼申し上げます」と登場。
「いろいろな事件の背景にアルコールの問題がひそんでいる。闇にひそんでいるものを、流行りの言葉で言えば『見える化』する必要がある。基本法は、闇に光明を与える法律。基本法によってアルコール依存症というやっかいな病気の正体が鮮明になり、対応が進むことを期待している」と語り、全員が起立して、一本締めで設立総会を締めました。